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SMILE-I

SMILE-I (Sub-MeV gamma-ray Imaging Loaded-on-balloon Experiment I)

SMILE_flight.jpgこれまで地上原理検証実験を続けてきた電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)を用いて、
実際に天体観測をしていくための第一歩として、小型のETCCを気球に搭載し、

  1. 宇宙線が降り注ぐ環境下でのガンマ線観測を実証する
  2. サブMeVガンマ線領域の宇宙拡散・大気ガンマ線を測定する

という目的で、気球高度でのガンマ線測定を行いました。
2006年9月1日、ETCCを搭載した気球はISAS/JAXAの三陸大気球観測所より放球され、
高度32〜35 kmで約3時間の観測を行い、ガンマ線の観測に成功しました。

SMILE-I検出器

SMILE-I ETCCの構造CRW_0605_RJ.JPGSMILE-I ETCCは、10×10×15 cm3のガス飛跡検出器(Xe:Ar:C2H6=80:18:2[重量比], 1 atm)と
これを取り囲むGSOピクセルシンチレータアレイで構成されました。
このETCCは150 keV〜1.5 MeVのガンマ線に対して、約1 mm2の有効面積を実現しました。
また、3 sr(開き角120°)もの非常に大きな視野が実現され、
大気ガンマ線や宇宙拡散ガンマ線のような、大きく広がったガンマ線観測に合わせた検出器となっています。
ETCC上部にはプラスチックシンチレータを設置し、
反同時計数を取ることで、荷電粒子によるトリガーを減らすようにしました。
通常のガンマ線カメラでは、視野外からのガンマ線入射を減らすため重いシールドを置きますが、
このSMILE-I検出器には、そのようなシールドは一切設置していません。
Geant4を用いたシミュレーションから、高度32 kmで3時間の観測を行うと
400個の宇宙拡散・大気ガンマ線が検出されると予想されます。

気球実験

fig6.pngfig5.png2006年9月1日6時11分、SMILE-IはB100気球(体積100,000 m3)に搭載され、
ISAS/JAXAの三陸大気球観測所(Sanriku Balloon Center)から放球されました。
気球は順調に浮遊し、8時56分には高度35 kmに到達し、
13時00分までの約4時間、高度32〜35kmで水平浮遊しました。
SMILE-I ETCCは、5時過ぎから測定を開始し、
12時33分に観測を終了して電源OFFするまでトラブル無く動作しました。
その後、気球は安全に降下し、太平洋三陸沖にて無事回収されました。


実験の様子

解析結果

fig23.pngfig22.pngfig20.pngfig8.png回収されたHDDには、雑音も含めて2×105事象のデータが保存されていました。
エネルギー損失率による粒子識別とコンプトン運動学テストを用い、
雑音事象を除いたガンマ線事象は2100事象でした。
このうち、高度32〜35 kmの水平浮遊における実効時間3時間の事象数は420個と、
シミュレーションの予測と誤差の範囲で良く一致するものでした。
また、ガンマ線事象の時間変化を見ると、
地上から上昇していくにつれ、単位時間あたりのガンマ線事象数も増加していき、
放射線量が最大となるPfotzer極大のあたりで最大値となり、
その後次第に減少して水平浮遊に入ると、ほぼ一定値に落ち着くという様子が確認できます。
これは、すでに知られている事実と矛盾しないものです。
単位時間あたりのガンマ線事象数を、シミュレーションから得たETCCの検出器応答を用いて
ガンマ線強度に直し、大気の厚みとの関係を調べると、
過去の他のグループの気球実験の結果から構築されたモデルと非常によい一致が見られました。
最後に、宇宙拡散ガンマ線及び大気ガンマ線のスペクトルを得ると、
共に過去の多数の実験と誤差の範囲で一致する結果が得られました。
以上のことから、SMILE-I ETCCは宇宙線が降り注ぐ環境の中でも、
雑音事象を強力に排除し、ガンマ線の観測を行えることが証明されたと言えます。

発表論文等