ガンマ線望遠鏡「電子飛跡検出型コンプトンカメラ」
MeVガンマ線は非常にエネルギーが高いため、透過力が強く、反射もほとんどしないため、
可視光観測で用いられる光学系やX線のような斜入射型の鏡を用いての集光ができません。
したがって、MeVガンマ線の測定には工夫が必要です。
電荷を持たないガンマ線を検出するためには、ガンマ線と物質の相互作用をとらえる必要があります。
MeVガンマ線と物質の相互作用で最も頻度の高いものは、
光と電子との間で起きる弾性散乱であるコンプトン散乱ですので、
これをとらえることが高効率なガンマ線カメラを実現する鍵です。
電子飛跡検出型コンプトンカメラ(Electron-tracking Compton camera, ETCC)は、
ガス飛跡検出器とそれを取り囲むシンチレーション検出器からなります。
ガンマ線がETCCに入射すると、ガス飛跡検出器でコンプトン散乱を起こします。
コンプトン散乱で弾き飛ばされた電子のエネルギーと弾かれた方向・散乱の起きた位置をガス飛跡検出器でとらえ、
周囲のシンチレーション検出器で散乱されたガンマ線のエネルギーとその吸収位置をとらえます。
これらの情報から、入射してきたガンマ線の方向とエネルギーが、
弾かれた電子と散乱されたガンマ線それぞれの運動量の和という単純な形で得ることができます。
またコンプトン散乱には、電磁波であるガンマ線が散乱を起こすと、
ガンマ線の電場方向と垂直な方向に散乱されやすい、という性質があります。
この性質を利用することで、ガンマ線の偏光方向も測定が可能です。
ガンマ線には、エネルギー・方向・時刻・偏光の4つの情報があり、
それぞれ天体現象を調べるのに重要ですが、
電子飛跡検出型コンプトンカメラは、これら全てを同時に観測できる検出器と言えます。
ETCCの雑音除去能力
原理検証機による実証
Micro Pixel Chamber (μ-PIC)
我々の研究室では微細加工技術を用いたガス検出器(Micro pixel chamber, μ-PIC)の開発を行っています。
ETCCの根幹であるガス飛跡検出器もこれを応用したものです。
μ-PICは比例計数管を輪切りにして縦横に並べたような構造をしています。
中心の陽極に高電圧をかけると、その周囲に強い電場構造がつくられます。
ここに電子が入ると強い電場によって加速され、周囲のガス分子に衝突しては新たにイオン・電子対を生む、
という反応を繰り返すこと(電子なだれ)で高い増幅率を得て、
放射線による微小な信号を電気的に得ることができます。
μ-PICは前身の検出器であるMSGC(Micro strip gas chamber)の高位置分解能・高計数率という特徴を受け継ぎ、
さらに放電に対する耐性に優れ、大面積の検出器も作成可能という特徴を持ちます。
このμ-PICは、MeVガンマ線望遠鏡だけではなく、
中性子イメージング検出器や暗黒物質探査実験など、
幅広く応用されています。
μ-PICの開発
ガス飛跡検出器の開発
シンチレーションカメラ
ETCCの空間分解能・エネルギー分解能を大きく左右するのは、
シンチレーションカメラの性能です。
ガス飛跡検出器の性能を最大限生かすためにも、
シンチレーションカメラの開発は欠かせません。
我々の研究室では、ETCC用のシンチレーションカメラの開発も行っています。