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for Environment

環境モニタリングの必要性

2011年3月の東日本大震災によって引き起こされた
福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の問題は、未だ解決をしていません。
現在、汚染された土壌に関して福島県周辺で行われている対策は、
広範囲に放射性物質を除染することです。
我々の生活している空間から放射線量をできるだけ減らすため、
土壌表面近くに堆積した放射性物質を取り除いたり、それらを土で覆ったりすることによって、
元の環境と同レベルの放射線量まで下げることを行っています。[1]

ところで、除染の効果を確かめるためには放射線量を測定することが必要です。
局所的に放射線レベルの高い場所、いわゆるホットスポットの観測は様々な装置の開発が行われています。
一方で、比較的放射線レベルの低い環境放射線程度の場所では、
線量計を用いて一ヶ所ずつ測定が行われています。
この方法ですと一回の測定で一ヶ所の線量しか分からないため、
広い場所での線量分布を知るのは大変です。
除染対象の面積の大部分を占める低線量な場所において、
視野内の線量分布を簡単に、また正確に可視化することができれば、
非常に効率的な除染作業が可能になると考えられます。
また今後の除染対象であるとても広い場所、
例えば森林などで比較的高線量の除染個所を特定することで、効率良く除染が可能になると考えられます。

今回の事故により飛散した主な核種は
ヨウ素131(131I)・セシウム134(134Cs)・およびセシウム137(137Cs)です。
ヨウ素131の半減期は8日なので2014年現在すでに消滅してしまっています。
残るセシウム134も半減期2年なので、比較的早く減少していきますが、
セシウム137は半減期が30年ですので、長期間影響が続きます。
そのため、このセシウムの分布が分かる装置が求められます。

ETCCの応用

我々の開発している検出器電子検出型コンプトンカメラ(ETCC)は
このsub-MeV領域のガンマ線を放出するセシウムなどの核種に感度を持ちます。
この技術を応用して、飛来方向毎の線量分布画像に可視カメラ画像を重ね合わせた、
高感度広視野のガンマ線画像分析装置を開発しています。
検出器の原理SMILE-IIと同じです。
特に、宇宙探査用の検出器を環境ガンマ線検出に特化するように性能の改善、装置の改良を行っています。
そして、実際の除染対象地域において環境放射線の測定試験を行い、
最終的には製品として実用化することが課題です。
京都大学はこの課題の解決に向けて堀場製作所、キヤノンとともに
産学官連携プロジェクトとして研究を進めています。 [2]

装置の特徴

envetcc1.jpgETCCの特徴は、ガンマ線が物質と作用するコンプトン散乱過程を、
反跳電子を含め完全に捉えて再構成することにより、
ガンマ線毎の到来方向とエネルギーを求めて画像化することです。
また電子飛跡をとらえることによって画像再構成時のバックグラウンド除去ができます。
これらの特徴を環境モニタリングに応用することにより、
エネルギー識別能力から、自然放射能、核分裂生成物などの核種の区別もできます。
観測されたガンマ線から広範囲のガンマ線分布だけでなく、
放射線源となる核種の分布と線量も推定することができます。
さらに、重たい遮蔽を用いずに、簡単に利用できる高感度なガンマ線撮像装置が実現できます。

京都大学では、宇宙探査用のETCCより小型化した試作機を製作して、
多様な環境下の中でETCCを安定に動作させるためのETCCの性能、効率の改善など基礎的な開発を行っています。
特に京都大学が中心になって行っているのは、基礎的な物理過程が重要な

  1. 検出器中で非常に重要な電子飛跡検出部(TPC)のうちのピクセル型ガス増幅装置(μPIC)の利得安定性を向上
  2. TPC内のガスの種類および圧力の最適化を行い、感度、画像分解能の最適化と手法の開発、

についてです。

[1] 環境省除染情報サイト 
[2] JST研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「放射線計測領域」「高感度広視野ガンマ線画像分析装置の実用化開発」
(代表、堀場製作所 2012−2014年度) 

発表論文等