宇宙分科会
天文天体物理夏の学校2006
Introduction
招待講師
一般講演
時間割

■■ 一般講演 アブストラクト ■■

渡邊 泰典 (Hironori WATANABE、名古屋大学太陽)
"最前方粒子測定実験LHCf シンチレータのキャリブレーション"
 高エネルギー宇宙線のスペクトルがどこまで伸びているのかまだ決着が着いていない。この高エネルギー宇宙線をよりよい精度で測定するためには、大気中で起こるハドロン相互作用を正確に知る必要がある。そこで、我々LHCf実験ではCERNにおいて2007年に稼働予定である現在の人類が達成できる最高エネルギーのLHC加速器を用いてハドロンの相互作用を調べる。LHCf実験で使用する検出器には、タングステンとシンチレータを使用したサンプリングカロリーメータを使用する。検出器に使用するシンチレータには個々の特性がある。そのため、個々のシンチレータの特性を調べる必要がある。今回はLHCf実験の概要と、私が行ったβ線源を用いたシンチレータの集光効率の位置依存を求めるキャリブレーションの手法と結果を報告する。


間瀬 剛(Tsuyoshi,MASE、名古屋大学太陽)
"最前方粒子測定実験LHCf 光電子増倍管のキャリブレーション"
 LHCf実験は欧州合同原子核研究機関CERNにおいて稼動する粒子加速器LHCで行われる実験の一つです。LHCでは7TeV-7TeVの陽子を正面衝突させ、実験室系で10^17eVのエネルギーを実現します。これを用いることで宇宙線と物質のハドロン相互作用のモデル検証をするのがLHCf実験です。宇宙線のエネルギースペクトルは10^20eVまで達しており、この最高エネルギー宇宙線はAGASA、HiResで観測されたが、それぞれ異なった実験結果を報告しています。そのため次期計画としてAuger、TAなどが計画されているが、そのためにはハドロン相互作用モデルの確立が必要不可欠です。LHCf実験では場所の制約から非常にコンパクトなカロリメータのタワーを必要とします。そしてそれぞれのカロリメータには多数のシンチレーターと光電子増倍管があり、それらのキャリブレーションを行わなければなりません。そこで我々はレーザーを用いて実験を行いました。今回はそのキャリブレーション手法および実験結果について発表します。


東海林 彰(Akira SHOJI、千葉大学)
"IceCube実験における超高エネルギーミューオン事象の再構築 "
 IceCubeは1ギガトンという大きな検出器体積を誇り、1016^eV を超える超高エネルギーニュートリノ起因のミューオン事象の観測も可 能となる。この超高エネルギーニュートリノ起因のミューオン事象を観 測する事で最高エネルギー宇宙線起源のモデルに制限を付ける事ができ る。この際、バックグラウンドである大気ミューオンと識別するため に、超高エネルギーミューオン事象の幾何学及びエネルギーの再構築が 非常に重要となる。本講演ではこの再構築法について述べる。


稲場 未南 (Mina INABA、千葉大学)
"IceCube用の光検出器の絶対較正"
 IceCubeは地下1400mから2400mの南極氷河に、4800個の光検出器を埋め込むことで総容量1km^3の体積を作り出す、ニュートリノ観測装置である。使用する光検出器は、DOM(Digital Optical Module)と呼ばれ、耐圧球の中に光電子増倍管、データ収集回路、電源、磁器シールドが格納してある。全体のうち数%のDOMについては、光電変換効率の絶対較正を行っており、その他のDOMは、その相対値から、光電変換効率を見積もることができる。絶対較正は全ての検出器の基準となるので、非常に重要な測定である。今回の講演では、PMTの絶対較正実験の測定結果とDOMの測定システムについて述べる。


田中 隆之 (Takayuki TANAKA、名古屋大学太陽)
"スーパーカミオカンデにおける高エネルギー現象の探索"
 スーパーカミオカンデ実験装置は地下1000mに設置された総重量5万トンもの純水を用いた大型水チェレンコフ検出器である。ここでは、様々なニュートリノの研究、陽子崩壊の探索などが行われている。また、この7月より数年前に起こった光電子増倍管破損事故の復旧が完了した。ここではSK-III実験として、1万本を超える増倍管を用いて、さらなる水漕内での反応粒子の判別能力の向上、また太陽ニュートリノなどの低エネルギー現象の観測性能の向上が期待されている。また、現在、2次宇宙線の崩壊から発生する、大気ニュートリノなどの高エネルギー現象を測定するために、FlashADCモジュールが導入されている。私たちのグループではSK-III実験において、このモジュールによる測定が正確、安定になされるためにレーザー光源を用いたキャリブレーションを行い、そこからモジュールの出力信号の特性や、高エネルギーイベントに対する各チャンネルにおけるエネルギー再構成のためのデータを得た。本講演ではスーパーカミオカンデ実験装置の概要と現況、並びにFlashADCモジュールのキャリブレーション結果についてを述べる。


丸山 泰弘 (Yasuhiro MARUYAMA、名古屋大学太陽)
"新型中性子望遠鏡計画 --粒子弁別とデザイン決定--"
 我々の研究室では、太陽フレア時に到来する中性子を観測するために、世界各地に中性子望遠鏡を設置している。しかし、現行の望遠鏡では粒子弁別が不十分であり、また、エネルギーや方向決定の精度も低い。そのため、現在、新型中性子望遠鏡の建造計画が進んでいる。昨年、新型中性子望遠鏡の設計のため、K2K実験の前置検出器であるSciBarを用いて予備実験を行った。今回は、その予備実験の成果と、その成果を用いた新型中性子望遠鏡での粒子弁別と、そのためのデザイン決定について発表する。

大平 豊 (Yutaka OHIRA、大阪大学宇宙進化グループ)
"粒子加速における電子の注入問題"
 現在最も広く認知されている宇宙線加速機構は、超新星残骸などに存在する無衝突衝撃波におけるDSA(Diffusive Shock Acceleration)機構である。DSAではあらかじめ、磁場と共鳴散乱できる粒子を仮定している。低エネルギー粒子は共鳴散乱できないので、低エネルギー粒子を共鳴散乱できるエネルギーにまで加速する機構が必要となる。またDSAでは観測されているベキ型スペクトルを説明できるが、その絶対値を与えない。これらの問題を「粒子加速の注入問題」と呼ぶ。特に電子に関しては、共鳴散乱できる速度が陽子に比べて質量比(1836)倍だけ大きいことと、衝撃波面を自由に通過できないことがあるため、陽子よりも難しいとされている。本発表では、この電子の注入問題に取り組んだ先行研究のレビューとその問題点に加え、我々の研究について発表する。

堀内 俊作 (Shunsaku HORIUCHI、東大宇宙理論)
"暗黒物質対消滅:銀河外ガンマ線背景放射への寄与"
 銀河外ガンマ線背景放射はEGRETを始め、さまざまな衛星により観測されている。その起源に関してはいまだ謎に包まれており、理論的研究が行われてきた。特筆すべきは、暗黒物質対消滅がガンマ線背景放射に寄与している可能性があることである。暗黒物質は宇宙物理だけでなく、素粒子物理からもモティベートされていて、超対称性から予言されるニュートラリーノが最も有力な素粒子となっており、対消滅によりガンマ線放射が期待できるためである。一方、われわれの銀河内には中間質量ブラックホール(IMBH)が存在することが観測的に示唆されている。最近、それらのIMBH周りに降着した暗黒物質ハローからの対消滅ガンマ線が次世代ガンマ線検出器GLASTで十分観測可能であることが指摘された(Bertone, Zentner, Silk, 2005)。今回われわれは、銀河外におけるIMBHの進化を考慮し、それらの周りからの暗黒物質対消滅が、観測されている背景ガンマ線にどの程度の寄与を与えうるかを定量的に評価した。



■■ ポスター発表 ■■
三宅 晶子 (Shoko MIYAKE、茨城大学)
 宇宙線電子ハローの構造と銀河風、磁場構造の関係"
銀河風の存在や銀河および周辺の磁場構造は、断熱減速やシンクロトロン放射、逆コンプトン効果による宇宙線電子のエネルギー損失を通して宇宙線電子ハローの構造に反映される。言い換えると、宇宙線電子ハローの構造を数値的に調べることは銀河風の存在や磁場構造を探る新しい手段になるかもしれない。そこで本研究では、銀河風や磁場構造に関するいくつかのモデルを想定して宇宙線電子ハローの構造を数値計算し、銀河風や磁場構造との関係を調査した。またそれをもとにスターバースト銀河NGC253における電波ハローの構造も計算し、観測結果と比較・議論した。本発表では上記研究結果の詳細について議論する。

高見 一 (Hajime TAKAMI、東大宇宙理論D1)
"超高エネルギー宇宙線の到来方向とその起源の相関"
 10^19eVを超えるエネルギーを持つ超高エネルギー宇宙線はそのエネルギーの高さから銀河系外に起源を持つと考えられている。銀河間空間に存在する磁場については未だほとんど理解されていないが、AGASAが観測した宇宙線到来方向分布の小スケールのクラスタリングイベントは銀河間磁場が十分弱く、銀河間空間中での宇宙線の伝播過程において磁場による曲がりが小さいことを示唆している。このことからあるスケールで宇宙線到来方向と実際のソースが相関することが期待される。宇宙空間の磁場をまったく無視した時の天体と宇宙線到来方向の相関は調べられているが、相関を持つ天体の距離が遠すぎるなど、よい結果は得られていない。我々は磁場を導入したシミュレーションを行うことによってこの相関の典型的な角度を調べ、また観測がどの程度のイベントを集めればこの相関が見えてくるかを議論してきた。今回はこの結果の一部について報告する。

座長
高見 一 (東大 宇宙理論研究室D1)
水上 拓 (京大 宇宙線研究室M2)
小池 貴 (名大 太陽地球環境研究所M2)