「あすか」によって観測されたドップラー偏移した輝線を多数含むX線スペクトルの解析から、SS433のジェットの運動エネルギー放出率は、少なくとも2E40 erg/s を超えることが明らかにされた。すなわち、SS 433は、WolfRayet 星の光度を超える、現在の天の川銀河のなかで最も強力な定常的エネルギー放出源である。
現在、われわれは XMM Newton によってようやく最近になって得られたスペクトルを解析しているが、静止系の低温ガスでは説明の出来ない、高いエネルギーの鉄吸収端を発見した。観測されるX線光度では吸収物質を高階電離させることは難しく、電離源である強力な放射が我々には降着トーラスによって隠されている可能性がある。必要な光度はジェットの運動エネルギーと同程度となり、エネルギー的には極めて妥当である。もしそれが正しければ、恒星質量ブラックホール(ことによると中性子星)が、100太陽質量のエディントン光度を放射できる可能性を示唆するものであり、AGNやULXなど高光度X線天体の正体や放射機構を探る上で重要な情報を提供する。
また、Chandraの回折格子を用いた観測からは、鉄K輝線の視線速度幅が珪素など低エネルギーのものより大きく、ジェットの開き角が根本から離れると小さくなる、すなわち収束していることを示唆する。この定量的な観測は、ジェットの形成(加速と収束)の物理を研究する上で重要である。
ChandraやNewtonのデータの解釈の可能性として上に述べたものは、唯一の可能性とはいえないが、極端な無理はなく、もし正しければそのインパクトは甚大である。Astro-E2により、輝線の森の中の吸収端の形状とエネルギーを正確に計測すること、また輝線のエネルギーと幅を正確に計測し、これらの解釈の妥当性を検証し、超臨界降着ジェットの物理を明らかにしたい。