激変星では、白色矮星の表面付近に温度1-40keVの光学的に薄いプラズマが形成される。このような高温プラズマは、XRSで初めて精密分光が可能となる鉄のKα線が卓越する世界である。
強磁場激変星の衝撃波面では、白色矮星の重力ポテンシャルに対応した、光速の1%程度の速度を持つH-likeの鉄Kα線が卓越する。これは白色矮星のM/R比を求め、降着流と我々の視線とのなす角を白色矮星の自転位相の関数として知るための新たな手段として重要である。一方He-likeの鉄Kα線は衝撃波の高さの10%程度以下の領域から放射される。この領域では電子密度が10^{16-18}cm^{-3}と推定されるので、tripletの強度比を用いたプラズマの電子密度の測定が可能になる。これにより衝撃波後面のプラズマの大きさや冷却過程が明らかになるとともに、強い磁場を持つ白色矮星とそうでないもの(磁場強度が1MG以下で電子密度が10^{14}cm^{-3}程度以下)を区別するまったく新しい手段になりうる。
磁場の弱い白色矮星を持つ激変星ではX線は白色矮星表面付近に形成される境界層から放射されると考えられている。XRSのエネルギー分解能をもってすれば、MgからFeまでのHe-like tripletを用いて、境界層の温度と密度のプロファイルについての初めての知見を得ることができると考えられる。