「すざく」が挑む宇宙物理学の宝庫、定家の超新星残骸
2006年12月6日
小山勝二 (京都大学)
馬場彩 (理化学研究所)
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本年は藤原定家(1162-1241)が「明月記」に記録し(1)、史上最も明るく輝いた超新星 SN1006 の1000年紀にあたる。「すざく」衛星で撮像した1000才の記念写真は以下の重要な事実を明らかにした。
約6千光年遠方の白色矮星に隣の星からガスが降り積もっていた(2)。西暦1006年5月1日、ついに白色矮星の臨界質量(太陽の1.4倍)を超し、全体が瞬時に核融合反応をおこし、同時に大量の鉄、カルシウム,アルゴン、硫黄を合成した。莫大な爆発エネルギーはこれらの重元素を含む全てのガスを吹きとばした(超新星SN1006)。1000年の時を経て、この痕跡は約50光年直径の巨大火の玉に成長した(図:左)。「すざく」は世界で初めてこの火の玉の中から大量の重元素を発見した(図:右)。
図 左:茶色の部分はSN1006からの高温プラズマ球。温度は約1000万度、実直径は約50光年の巨大火の玉だが、地球からは、満月と同じ大きさに見える。青色の部分は宇宙線を加速している衝撃波の殻、秒速 3000 kmで膨張しており、この殻と星間空間の間でピンポン玉のように荷電粒子が1000年間にわたって跳ね返され、地上では実現不可能な超高エネルギー粒子になった。南側、東側、北側の順に加速効率、最高到達エネルギーが増大している。右:X線スペクトル、大量の重元素の存在を示している。
SN1006は「あすか」により初めて超高エネルギー粒子(宇宙線)の加速源に同定された超新星残骸である。「すざく」の新たな観測は宇宙線の加速効率が衝撃波殻の場所によって大きく異なることを発見した。一番強い加速が行なわれている北側(図 左)では、20-30兆電子ボルトもの超高エネルギーに粒子が加速されていた(3)。
(1) 明月記第五十二巻、寛喜二年冬記に「一條院 寛弘三年 四月二日 葵酉 夜以降 騎官中 有大客星 如熒惑」とある。「西暦1006年5月1日、騎官(現在の狼座付近)の方向に大変明るい客星(超新星)が現われ、熒惑(けいわく:火星)のようだった」という意味である。
(2) 太陽の数倍の質量の星は進化の最後に炭素、酸素からなる高密度星、白色矮星になる。この星が連星系(二重星)の場合、相手の恒星からガスが降り積もる。それが臨界質量(チャンドラセカール質量)に達すると大爆発をする。これをIa型超新星(核暴走型)という。いわば、巨大な原子炉が核暴走する爆発である。
(3) 宇宙線は湯川博士(来年が生誕100年)が誕生した頃に発見された、宇宙で最高エネルギー粒子である。しかしその起源や加速機構は永い間謎だった。この謎の解明に決定的な役割を果たしたのが「あすか」と「すざく」によるSN1006のX線観測である。湯川博士が理論的に予言した。中間子も宇宙線の中から発見されノーベル賞に輝いた。そのときの宇宙線はSN1006に源を発したものかも知れない。