銀河の大爆発が作った巨大プラズマの「帽子」
2006年12月6日
鶴 剛 (京都大学)
満田和久 (宇宙研)
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X線衛星「すざく」は、おおぐま座M82銀河から北へ約3万8千光年離れて位置する巨大なプラズマの塊「M82の帽子」から大量の重元素を発見した。約2千万年前にM82銀河で超新星爆発約1万個の大爆発が起こり、高速のプラズマ流を放出した結果、この「帽子」が作られたことを解明した。「M82の帽子」は小さな銀河に匹敵する大きさ(約1万2千光年×約3千光年)を持つが、淡い構造のためこれまで十分な観測がなかった。「すざく」は鮮明な「帽子」の撮像に成功し、世界で初めて極めて高い精度のX線データを取得することに成功した(図1)。
X線スペクトル解析の結果、巨大プラズマの温度は約700万度であり、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素が大量に含まれ、鉄は相対的に半分に過ぎない事を解明した(図2)。これらは銀河の中にのみ存在する巨大恒星が超新星爆発して作った重元素である。M82銀河から約3万8千光年も離れた「帽子」の中で発見されたことは驚くべき事実である。さらに「帽子」とM82銀河の間からもX線が検出された。両者を結んで高温プラズマが満たされていたのである。 プラズマの速度は秒速数百km、M82から帽子に達するには約2千万年必要である。よって、約2千万年前にM82銀河で大爆発が起こり、超高温プラズマの灼熱風(銀河風)が放出され、今現在、「M82の帽子」と呼ぶ特異な構造を作ったと結論できる。
「すざく」は、天の川銀河中心で超新星爆発が連続的に起こり、巨大超高温プラズマで満たされている事を証明した。M82銀河では、これを遥かに超えた規模の爆発だった。実際、現在でもM82銀河中心には天の川銀河中心の約1万倍に近い質量の巨大プラズマが存在している。
我々は平成12年9月、このM82銀河から中質量ブラックホールを発見し、10月には電波研究者と共に、その中質量ブラックホールは約100万年前の超新星爆発約1万個の大爆発から誕生した、とする研究結果を報告した*1。今回の成果「M82の帽子」も、ちょうど超新星爆発約1万個分の規模である。すなわち、約100万年前と同様に、約2千万年前の大爆発でも中質量ブラックホールが作られただろう。M82銀河は現在も活動を継続している。これからも大爆発がおこり、そして中質量ブラックホールも作られていくと予測できる。
「M82の帽子」の巨大プラズマは簡単には冷えない。これからも秒速数百kmで宇宙の旅を続ける事であろう。
*1 : http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/research/
図1: 「すざく」衛星の裏面照射型CCDで得たX線画像。M82銀河の場所には、米国「チャンドラ」X線衛星、「ハッブル」宇宙望遠鏡、「スピッツァー」赤外線衛星で取得された3色写真を重ねた。
[図中に説明が無いもの] [「すざく」のみの部分]
クレジット:M82の帽子(全体):「すざく」チーム。M82銀河の場所の3色写真:X線: NASA/CXC/JHU/D.Strickland; 可視光: NASA/ESA/STScI/AURA/The Hubble Heritage Team; 赤外線: NASA/JPL-Caltech/Univ. of AZ/C. Engelbracht (http://chandra.cfa.harvard.edu/photo/2006/m82/)
図2:「すざく」衛星の裏面照射型CCDで得たX線スペクトル。
クレジット:「すざく」チーム。