銀河の巨大な爆発から誕生する新種ブラックホール
2000年9月20日

松下聡樹(ハーバード大学スミソニアン宇宙物理学研究所)、
川辺良平(国立天文台野辺山)、鶴 剛(京都大学物理)、
松本浩典(マサチューセッツ工科大学)、
日本天文学会

 私達を中心とする国際研究グループは、X線天文衛星チャンドラによるおお ぐま座の不規則銀河M82の観測を行い、中心から約500光年離れた場所に存在す る新種のブラックホール「中質量ブラックホール」を発見しました(図1、図2)。 これは既に9月初旬に私達とNASAで共同で報告し、CNN、ワシントンポストなど 外国及び日本国内の多くの新聞社や放送局によって大きく報道された通りです。 しかし、この時点では新種ブラックホールの存在のみが確定しただけであり、 その誕生のメカニズムについては単なる推測に過ぎませんでした。
 その誕生のメカニズムを単なる推測を超え観測的に明らかにするために、私 達日本人チームは独自に国立天文台・野辺山ミリ波干渉計を用いて、この領域 を新たに観測しました。この装置は口径10mのアンテナを6台組み合わせたも のです。1982年に観測が開始されましたが、その後継続的に改良がなされてお り、その結果、現在でも世界トップレベルの高感度でピントの良い分子雲の写 真を撮ることが出来ます。
 私達は波長2.6ミリの一酸化炭素分子輝線の観測から、新たに分子で構成さ れる直径約700光年にも及ぶ巨大な「泡構造」を発見しました(図3)。そのドッ プラー速度と質量を調べたところ、この泡構造は約100万年前に起こった超新 星爆発約1万個に相当する巨大な爆発によって作られ、現在も秒速約100kmで膨 張を続けていることが分かりました。さらに他の観測結果と比較したところ、 爆発に伴う衝撃波によって作られたメーザー源(電波レーザー)が泡の内側に存 在していること、また日本のX線天文衛星「あすか」衛星による私達の観測か ら、分子の泡構造とほぼ同じ規模のエネルギーを持つ高温ガスがこの領域に存 在していることが分かりました。これらの観測は全て巨大な爆発がこの領域で 起ったという私達の結論を強く支持します。
 この泡構造とチャンドラX線衛星の観測結果と比べたところ、驚くべきこと に私達の発見した中質量ブラックホールがこの泡構造のほぼ中央に位置してい ました。さらに同時に発見された小型ブラックホール群も、やはりこの泡構造 の中に存在しています。このことから、巨大な爆発に伴って中質量ブラックホー ルと小型ブラックホール群が誕生したと結論できます。
 泡構造とそれをつくり出した巨大な爆発は、一度に大量の恒星が連鎖反応的 に誕生するスターバースト(爆発的星生成)と呼ばれる現象の結果としておこり ました。中でも太陽の数十倍以上の非常に重い星はごく短時間の内に進化し、 次々と超新星爆発を起こしていきます。今回の場合約1万個の超新星爆発が起っ たと考えられます。その結果、爆発の衝撃波によって周囲のガスが掃き寄せら れ、泡構造が作られたのです。一方、泡の中では、超新星爆発から大量に小型 ブラックホールが出現します。この小型ブラックホール群は互いの強い重力に より、まだ爆発しないでいる恒星も含めて徐々に合体していきます。こうして 質量を増していき現在ちょうど中程度のブラックホールまで成長したところで す。「すばる」望遠鏡などによる赤外線観測から、泡の中にまだ多くの恒星が 残っていることが分かっています。しかし、これらの恒星もいずれブラックホー ルに飲み込まれてしまうかも知れません。その結果、M82に巨大なブラックホー ルが出現することでしょう。
 M82で観測されるスターバーストは、私達の銀河系も含めて、全ての銀河が 誕生時に経験する普遍的な現象だと考えられています。一方、ほとんどの銀河 の中心には巨大なブラックホールが存在し、銀河と宇宙全体の進化に大きな役 割を果たしていることが分かってきました。今回の私達の研究結果は、この二 つが無関係の独立した現象では無く、宇宙進化の大きな流れとして統一的に理 解できることを世界で初めて観測的に示したのです。


図1及び図2。クリックすることで大きな画像を得ることができます。

図1の入手元とオリジナル画像。
図2のオリジナル画像。

図3。クリックすることで大きな画像を得ることができます。
図3のオリジナル画像。

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図は報道資料として御利用頂く限りは御自由にお使いになって結構ですが、 その際は著作権の明記をお願いします。
図1: 国立天文台提供
図2: 京都大学・鶴 剛助手提供
図3: ハーバード大学スミソニアン研究所・松下聡樹研究員提供

反響および新聞記事
関連する研究 新種ブラックホール発見
鶴 剛(Tsuru, Takeshi; 京都大学理学部物理 (E-mail: tsuru@cr.scphys.kyoto-u.ac.jp))