小マゼラン雲はパルサーラッシュ

X線カラー写真に垣間みる数奇な運命

The 98ers[1] --- 横川淳、辻本匡弘、今西健介、小山勝二(京都大学理学研究科)

普通の光と同様に、X線にも波長の違い、つまり「色」があります。 いままでの天文衛星は長い波長、いわば「赤い」X線にのみ感度をもっていました。 日本の「あすか」「赤」から「青い」X線までに感度をもち、X線カラー撮影を可能にした始めての天文衛星です。従って、「あすか」は人類の宇宙を見る新しい目といえます。

その人類のふるさと、天の川銀河は2000億もの太陽の大集団です。そしてその隣、16万光年と20万光年の距離に、それぞれ天の川銀河の10分の1、100分の1の規模をもつ伴銀河、大小マゼラン雲を従えています(図1a : 光で見たマゼラン雲図1b : X線で見たマゼラン雲)。

私達は「あすか」で、これらマゼラン雲のX線カラー撮影を行い、X線の「色」の違いから、X線天体の種族をはっきり区別、分類する方法を発見しました(図2)。 その結果、マゼラン雲では天の川銀河に比べ、X線連星パルサー超新星残骸の分布密度が驚くほど高いことが分かりました。とりわけ小マゼラン雲におけるX線連星パルサーで際立っています(図3)。

小マゼラン雲で、昨年までに知られていたX線連星パルサーは3個でしたが、1998年になって、「あすか」等によって新たに7個のX線天体から脈動(つまりパルサー)が発見されました。さらに先述の分類法を適用し、20個近くのX線連星パルサーとその候補天体が見つかったのです。 約100倍も巨大な天の川銀河ですら、これまでの30年間で60個ですから、小マゼラン雲は今まさにパルサーラッシュといえます。

太陽の10倍から20倍の質量をもつ大質量星は、最期の超新星爆発中性子星を作ります。 これが別の大質量星との連星[2]の場合、X線連星パルサーになります(図4)。 大質量星の寿命は約1000万年ですから、大量のX線連星パルサーの発見は1000万年程昔、小マゼラン雲で爆発的な星誕生とそれに続く超新星爆発(天文学ではこの現象をスターバーストといいます)があったことを意味します。不可解なことに、このスターバーストは普通と異なり、大質量連星を選択的に形成したようです。

近接する 大小マゼラン雲と天の川銀河は互いの強い重力場の中で、複雑に動き回っています(図5)。遠い過去にはニアミスもあったことでしょう。こんな時、小柄な小マゼラン雲は深刻な影響をうけます。 隣の銀河の強い重力は小マゼラン雲のガスを激しく擾乱、圧縮し、それが1000万年程昔のスターバーストの引金になったのでしょう。私達のX線カラー写真は、隣の大きな銀河に翻弄される小マゼラン雲の数奇な運命を映したスナップショットと言えるでしょう。


[1]: 1849年 ゴールドラッシュで殺到した山師は49ers、 1998年 パルサーラッシュに駆けつけた人は98ers。
[2]: 二つの星が対になって、互いに公転する系を連星という

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