私はこの講義では物理学実験に必要な技術としてのエレクトロニクスをみなさんに紹介して行こうと思っています。この講義の目的は2つあります.
最初の目的は言うまでもなくエレクトロニクスの初歩的な理解.理学部物理学科ですと、電気電子のような感じのいわゆる専門的な授業はできませんし、また必要はありません。我々にとってエレクトロニクスは手段であり目的ではありませんからね。でも、物理と言う目的を達成させるには、優れた測定装置は必須であり、常にその革新的な進歩が物理の発見を支えたわけです。それに私たちが必要とする実験装置は世間一般には特殊なものですから、お金で解決できるような生易しいものでは無いのです。自分たちで考案、開発して行くしか無いのです。それができない実験屋、実験グループは世界一には決してなれません。エレクトロニクスを含む実験技術は実験物理屋にはとっても重要なことなのです(多分、難しい数式を解くよりも)。回路図を読んで動作を理解することと、自分で良い回路を設計することはだいぶ違います。もちろん後者の方がはるかに難しい。回路を理解する一つの良い方法は、プロの設計した優れた回路を良く読むことです。この講義ではそのプロが設計した回路を読んで理解することを目標にしたいと思っています。この講義で身に付けた知識を元に、大学院で先輩やプロの設計した回路を読んでさらに精進して下さい。それから最後に大切なこと。自分が設計して作った回路がちゃんと動くときの感激はひとしおです。ぜひみなさんも体験して下さい。
もう1つの目的は,物理現象のひな形としてのエレクトロニクスです.エレクトロニクスでは,波,過渡特性など他の物理と類推できる現象がたくさんあります.それを学んでほしいと思います.例えば,熱浴と(熱容量を持たない)棒を介して物体を取り付けたとしましょう.この物体が最初高温だったとすると,棒を介して熱浴に熱が伝わり,最終的に熱浴と同じ温度になります.これを電気回路で物体はコンデンサー,棒は抵抗,熱浴はGNDと類推できます.熱流は電流であり,温度は電圧です.授業でもできるだけこの類推を挙げて行きたいと思います.