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1.Subaru とは?

Subaruとは、国立天文台がハワイ島のマウナケア山頂に建設中の口径8.2mの大型光学望遠鏡である。
完成すれば、国内最大の望遠鏡となることはまちがいない。

口径8.2mと簡単にいっても、その大きさの鏡を持つ望遠鏡を作ることは非常に難しい。
地上では重力があるため、そのままではその影響により主鏡が歪んでしまうのである。
Subaruでは、主鏡は多数のアクチュエータと制御技術を駆使して常に調節され、最適な状態に保たれている。

8.2mとは、現在ではほとんど限界に近い大きさと思われる。(図1:subaru 構造図)

2.Subaruでγ線を見る意義

Subaru望遠鏡は、もともと可視光、赤外線領域の観測のためにつくられた望遠鏡である。

光は、そのエネルギーによって分類されている。
可視光、赤外線は、10eV以下のエネルギーを持つ光である。

それに対して、我々の興味のある光は、少なくとも1MeV(1MeV = 1000000eV)以上の光、いわゆるγ線といわれるものである。
我々はそのなかでも、さらに高エネルギーの、エネルギーにして約数10GeV(1GeV = 1000MeV)のγ線をSubaruで観測する計画を立てている。
これは、Subaruがメインに考えている可視光、赤外線にくらべ、桁にして9桁も大きい。

では、なぜSubaru望遠鏡でγ線天体をみる必要があるのだろうか?

ひとつには、"我々には数10GeVを見る目が残されていない"、ということが挙げられる。

まず最初に、GeV領域の観測の重要性を述べておこう。
現在、多くのパルサーや活動銀河核には、GeV以上でエネルギースペクトルにカットオフが存在することが明らかになった。(図2:Pulse Cut-off)

すなわち、このカットオフ領域での詳細な観測は、宇宙高エネルギー現象を解明する重要な鍵となり得る。

それにもかかわらず、この領域を観測するための最大の手段、人工衛星CGROのγ線検出器EGRETは今年で運用を終え、これから10年間は地上観測が唯一の手段となってしまう。(図3:EGRET検出器)
しかも、数10GeV領域のγ線を厚い大気で覆われた地上で観測することは、非常に困難である。
これが、先程 "目が残されていない" と述べた理由である。

唯一可能な方法として、GeVγ線が大気と衝突して引き起こす粒子シャワーから放たれるチェレンコフ光を、光量が平地より4倍多い4000m級の高地10m級の反射望遠鏡を設置して観測すれば良い。
ただ、現実問題として、現在の超高エネルギーγ線グループの規模では、近い将来このような高地に望遠鏡を作ることは不可能である。

しかし、Subaru望遠鏡がある。

Subaru望遠鏡ならば、上に書いた条件を一通り満たす、我々高エネルギーγ線観測者にとっても、理想的な望遠鏡なのである。