謎のX線放射の起源は太陽風だった!
〜「すざく」がとらえた地球近傍における太陽風からの輝線放射〜
2006年12月6日

藤本龍一 (宇宙研、12月1日より金沢大学)
満田和久 (宇宙研)

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1990年代、軟X線での全天探査を行なっていた「ローサット」衛星の研究者たちは、数時間の時 間スケールで変動する起源不明の謎のX線強度増加に悩まされていた。1996年の彗星からのX線 放射の発見を契機に、その理解は少しづつ進んできたが、今回の「すざく」衛星の観測により、 このX線の起源が、地球の磁気圏に入り込んだ太陽風に含まれる高電離した炭素や酸素などのイオ ンであることの確実な証拠が得られた。

打ち上げ間もない2005年9月、黄道の北極方向を観測 していた「すざく」は、謎のX線増光を検出した。 「すざく」は、広がった天体からのX線の波長(エネ ルギー)を見分ける能力に関して、世界最高の性能を 持っている。図1は「すざく」によって得られた謎の X線の出現前後でのX線スペクトル(波長分布)の変 化を示している。この図から、X線増光は高電離した 炭素、酸素、ネオン、マグネシウム、鉄イオンからの 輝線の強度増加であることがわかる。注目して頂きた いのは矢印で示した輝線である。矢印で示した輝線 は、増光していない時には存在していない(緑線)。 高電離したイオンの輝線は温度100万度程度の高温プ ラズマから放射されるが、高温プラズマからは矢印の 輝線は、こんなに強くは放射されない。しかし、完全 電離した炭素イオンが中性物質と衝突し、電荷交換と 呼ばれる相互作用をしたときには強く放射される。 「すざく」はこの電荷交換反応に特徴的な輝線を初め てはっきりととらえ、謎のX線増光が太陽風の電荷交 換反応によって引き起こされていることを観測的に明 らかにしたのだ。
電荷交換反応はどこで起きているのだろうか? 時間 変動の詳しい解析から、地上高度6000 km付近である ことがわかった(図2)。もちろん、このような低高 度まで太陽風が入り込んで、そこの中性原子と電荷交 換反応を起こしていることがわかったのは初めてのこ とである。木星では、X線オーロラと呼ばれる現象が 観測されているが、それと似た現象が、私たちの地球 でも起こっていたのである。
彗星の周辺部も、太陽風の電荷交換反応によって軟X 線で光っている。さらに、同様のメカニズムにより、 太陽系全体もまた軟X線を放射している可能性が指摘 されている。この放射や地球近傍の放射は、超新星残 骸や銀河系内の高温星間物質、銀河系外の高温物質か らの軟X線放射を観測する場合には邪魔な存在となる ので、その影響をきちんと考慮する必要がある。これ は容易なことではないが、今後の「すざく」の観測に よって大きな進展が期待される。

図1: 「すざく」によって得られたX線の増光に 伴うスペクトル(X線の波長分布)の変化の様子。 増光によってスペクトルは緑から青に変化し、 赤で示した輝線が現れた。赤の矢印は、高い励 起状態にある炭素イオンからの輝線で、電荷交 換反応の証拠である。

図2: 地球の磁場、太陽風の経路、「すざく」衛 星の観測方向 と電荷交換反応が起きたと考えら れる領域の模式図。背景の絵はhttp://chandra.harvard.edu/photo/による。


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報道

  • 日経サイエンス2007年3月号