巨大ブラックホールの作る極限時空へ
==「すざく」が扉を開いた==
2006年12月6日

國枝秀世 (名古屋大学)
寺島雄一 (愛媛大学)
粟木久光 (愛媛大学)

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多くの銀河の中心核には太陽の1億倍以上の巨大ブラックホールが存在し、そこにガスが吸い込まれると強力なX線(太陽 の百億倍以上のエネルギー)が放射される。これがブラックホールの暗闇を照らす灯台の様に、まわりの極限時空構造を照 らし出す。「すざく」により、ブラックホールが作る極限時空の研究への扉が開かれる。 図3 降着円盤の模式図と「すざく」が捉えたMCG-5-23-16からの鉄輝線近傍のスペクトル 円盤の内側からの輝線は幅が広く、外側からの輝線は狭い 図4 MCG-6-30-15の鉄輝線近傍のスペクトル 図5 ブラックホールの回転と鉄輝線の形状の関係 問い合わせ先:國枝秀世 (名古屋大学) 寺島雄一 (愛媛大学) 粟木久光 (愛媛大学) ブラックホールへ落ちて行くガスに含まれる鉄は蛍光X線を放射する。 「あすか」はその波長に広がりがあり、左側(低いエネルギー側=波長 の長い側)に多くずれることを見つけた。輝線幅の広がりは波長の10% 以上、つまりガスは光速の10%以上の高速で走り回っている(ドップラ ー効果)。低いエネルギー側(5keV付近まで)へのずれは、ブラックホ ールの強い重力場で、時間が遅れ、波長が伸びている(時空のゆがみ) ためと考えられる(図1)。
図1「あすか」によるMCG-6-30-15 の鉄輝線プロファイル
「すざく」は、硬X線(10keV以上)での高感度観測が可能な硬X線検出 装置と分光可能な軟X線装置を持つ。この2つの装置は、鉄輝線と鉄輝 線より高いエネルギーの硬X線まで高い感度で観測することを可能に し、ブラックホール周辺で起こっている激しい現象を統一的に捉えるこ とができるようにした(図2)。これにより、鉄輝線を最高の精度で測 定することが可能となった。図3は、「すざく」が得た鉄輝線のプロフ ァイルである。精度の良い鉄輝線の測定は、降着円盤の外側から出た幅 の狭い輝線だけでは無く、円盤の内側(ブラックホールの近く)で放射 される、幅の広がった輝線を見事に描き出した。これによりブラックホ ール周辺の時空のゆがみを精度良く議論することが可能となった。
また、別の中心核では、非常に非対称な幅の広い鉄輝線が報告されて いる (図4)。この報告は非常に重要ゆえ検証の必要はあるが、5keV以 下までのびる広い輝線は、鉄輝線を放射するガスがブラックホールのご く近傍の強い重力の影響を受け放射されていることを表している。これ は中心のブラックホールが回転していることを示唆する(図5)。
今後、「すざく」によって、さらなる観測が行なわれ、極限時空が 詳しく研究される。「すざく」の精密データが、極限時空の扉を開くの である。

図2「すざく」で明らかになったブラックホールからのX 線

図3 降着円盤の模式図と「すざく」が捉えたMCG-5-23-16からの鉄輝線近傍のスペクトル
円盤の内側からの輝線は幅が広く、外側からの輝線は狭い

図4 MCG-6-30-15の鉄輝線近傍のスペクトル

[HXDを含めたスペクトル]


図5 ブラックホールの回転と鉄輝線の形状の関係

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報道
  • 日経サイエンス2007年3月号