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ETCCの雑音除去能力

電子飛跡による高品質ガンマ線イメージ

IWORID2004.jpg従来型のコンプトンガンマ線カメラは、電子飛跡を取得せず、
散乱ガンマ線・反跳電子のそれぞれのエネルギーから計算された散乱角と散乱ガンマ線の方向を用いて、
ガンマ線到来方向を円状(event circle)に制限する、というものです。
ガンマ線イメージは、この円を重ね書きすることで得られます。
このためガンマ線の到来方向を決定するには、どんなに少なくても3個以上の事象が必要です。
また、ガンマ線源以外の所に擬似信号(artifact)を作りやすい、という欠点もあります。

電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)では、
電子の反跳方向も取得し、ガンマ線1個に対して到来方向を決定できるため、
従来型のコンプトンカメラに比べてartifactも少なく、
SN比の良いクリアな画像が得られます。

これにより、従来型に比べてより暗い天体まで検出可能です。

エネルギー損失率による粒子識別

png_dEdx_2013Apr_Cs137_00deg_prop25.png電荷を持つ荷電粒子が物質中を走ると、周囲の物質を電離・励起しながら
次第にそのエネルギーを失っていきます。
荷電粒子が生まれた位置から、エネルギーを失って止まる位置までの距離(飛程)は、
荷電粒子のエネルギーと質量に依存します。
したがって、荷電粒子の持つエネルギーとその飛程が測定できると、
その荷電粒子の種類の特定(粒子識別)が可能になります。

我々の開発するガス飛跡検出器は、荷電粒子の飛跡とエネルギーが取得できるので、
エネルギーと飛程の関係から粒子識別が可能です。
コンプトン散乱は、電子とガンマ線の弾性散乱ですので、生じるのは電子のみです。
よって、このガス飛跡検出器中のエネルギーと飛程の関係が、
電子の場合に予測される関係と一致しないものは、全て雑音事象ということになります。
コンプトン反跳電子であっても、ガス飛跡検出器の中で止まりきれずに外へ出て行ってしまったものは、
ガス飛跡検出器中のエネルギーと飛程の関係は、電子の本来の値から外れるため、
「ガス飛跡検出器中で止まった電子」という事象のみを選び出せます。

このエネルギー損失率を用いた粒子識別により、
宇宙線・中性子・エネルギーをとらえ切れなかったコンプトン事象、といった雑音を強力に排除できます。

コンプトン散乱運動学テスト

ガンマ線散乱方向と電子の反跳方向の間の角は、
コンプトン散乱であることを仮定すると、
散乱ガンマ線のエネルギーと反跳電子のエネルギーだけから計算することができます。

我々の開発する電子飛跡検出型コンプトンカメラ(ETCC)は、
ガンマ線の散乱方向を得るだけではなく、電子の反跳方向も取得できるため
ガンマ線散乱方向と電子の反跳方向の間の角を幾何学的に測定できます。
これを、独立にエネルギー情報から得られた運動学的な角度と比較し、
一致するもののみ選び出すと、「コンプトン散乱である」ことを強く保証できます。

このコンプトン運動学テストにより、
偶然同時計数やシンチレータで散乱した事象などの雑音事象を排除可能です。

裏側からの照射

気球高度や衛星軌道上でガンマ線を観測すると、
宇宙とは反対側の地球側から、宇宙線と地球大気との相互作用から生じた多量のガンマ線が到来します。
これを排除しないとMeVガンマ線天体観測は成り立ちません。

従来型のコンプトンカメラは、
event circleの半径が大きくなってしまうと、到来方向の上下の判別ができなくなるため、
重い反同時計数シンチレータ検出器を置く、
データ解析で散乱角に制限をつけることで、計数を犠牲にして上方からの信号に絞る、
というような手法が取られてきました。

一方ETCCでは、ガンマ線1個に対して到来方向が決まるため、
裏側から照射されたガンマ線は、裏側から到来したように再構成されます。
したがって、特別な手段を講じることなく、
天体方向からのガンマ線と地球方向からのガンマ線の判別が可能です。